インボイス制度が始まってから、「課税事業者選択届出書」を提出するケースが増えています。
その際に多いご質問が、「高額な資産を買うと課税事業者の期間が延びるのですか?」というものです。
基本ルール
課税事業者選択届を提出すると、課税事業者となった最初の課税期間の初日から2年間は免税事業者に戻れません(個人事業者なら、原則として2年分)。
つまり、一度「課税」を選ぶと、すぐにはやめられない仕組みになっています。
延長の仕組み
この「やめられない期間」が延びる特例があります。次の条件をすべて満たす場合です(消費税法9条7項)。
- 選択届出書により課税事業者となった最初の課税期間の初日から2年を経過する日までに開始した課税期間中に(1年決算・暦年の場合は、課税事業者となった1年目と2年目)
- 税抜 100万円以上の調整対象固定資産 を購入し
- 購入した課税期間の消費税を原則課税(一般課税)で申告する(簡易課税で申告する課税期間の購入は対象外)
この条件に当てはまると、購入した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、免税事業者に戻れません。また、その間は簡易課税も選べず、原則課税で申告することになります(消費税法37条3項1号)。
たとえば暦年の個人事業者の場合、1年目に購入すれば1年目~3年目の3年間、2年目に購入すれば1年目~4年目の通算4年間、課税事業者となります。
なお、免税事業者に戻れないこの期間は、2割特例や、個人事業者の3割特例(令和9年分・令和10年分)も使えません。
対象となる資産は?
ここが誤解されやすいポイントです。
- ✅ 対象 → 建物、建物附属設備、機械装置、車両、器具備品などの 固定資産(調整対象固定資産)で、1つの取引単位の税抜価格が100万円以上のもの
- ❌ 対象外 → 商品や原材料などの 棚卸資産
つまり、在庫の仕入れや商品購入は「この延長の対象にはならない」ので注意が必要です。ただし、下記の「高額特定資産」は棚卸資産も含みます。
3年目に購入した場合は?
「3年目に100万円以上の固定資産を買ったら、さらに延びるのか?」
→ この特例(消費税法9条7項)による延長はありません。
この延長の判定は、上記の「最初の課税期間の初日から2年を経過する日までに開始した課税期間中の購入」に限られています。
ただし、税抜1,000万円以上の高額特定資産(棚卸資産を含みます)を原則課税で購入した場合は、別の規定(消費税法12条の4)により、購入した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで免税事業者に戻れず、簡易課税も選べなくなります。
届出を出していない登録事業者は?
インボイス登録の経過措置により、課税事業者選択届出書を提出せずに免税事業者から登録した場合は、選択届出書で課税事業者になったわけではないため、この延長(消費税法9条7項)の対象にはなりません(国税庁インボイスQ&A 問115-2の注3)。ただし、高額特定資産の規定は別途対象となります。
実務上の注意点
- 店舗改装、設備投資、大型備品の購入などは、届出時期との関係で免税に戻れる時期が変わります。
- 「3年目以降に買う分には9条7項の延長なし」ですが、最初の2年間に原則課税で買ってしまうと延長確定なので、投資計画と届出のタイミングを慎重に検討する必要があります。
まとめ
- 課税事業者選択届を出すと、課税事業者となった最初の課税期間の初日から原則2年間はやめられない
- 最初の2年間に原則課税で100万円以上の調整対象固定資産を購入すると、購入した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで免税に戻れず、簡易課税も選べない
- 棚卸資産(商品や材料)はこの延長の対象外
- 3年目以降の購入は9条7項の延長には影響しない(ただし1,000万円以上の高額特定資産は別の規定に注意)
※本記事は令和8年9月18日現在の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。実際の取扱いは、個別の事実関係によって異なります。