—定款と社員総会の運用を整えておくことが大切です
■ 合同会社が増える中で目立つ“税務の落とし穴”
近年、設立費用の安さや手続きの簡便さから、株式会社ではなく合同会社(LLC)を選択するケースが急増しています。
しかし、その自由度の高さが裏目に出て、税務上の制度の適用をめぐって税務署と見解が分かれるおそれがあります。
特に注意すべきなのが「事前確定届出給与」(役員賞与の損金算入制度)です。
株式会社では一般的に使われていますが、合同会社では職務の執行期間や届出期限がはっきりしにくく、定款や手続きの整備が不十分だと、損金算入をめぐって税務署と見解が分かれるおそれがある点に注意が必要です。
■ 東京国税局の文書回答(令和7年2月7日)の内容
東京国税局は令和7年2月7日付の文書回答で、合同会社の業務執行社員に支給する役員賞与について、照会した会社の事実関係を前提とする限り、事前確定届出給与として損金算入できるとする会社の見解に「差し支えない」と回答しました。
これは、国税局が合同会社一般の要件を示したものではなく、照会した会社(同族会社で、新設法人ではない会社)の個別の事実関係に対する回答です。その会社の事実関係は次のとおりでした。
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業務執行社員の任期を定款に明記する
定時社員総会に先立つ臨時社員総会で、業務執行社員ごとの任期(10年)を総社員の同意で決め、定款に明記する。
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事業年度終了後3か月以内に定時社員総会を開き、そこで報酬を決める
前期の決算の状況を踏まえ、定時社員総会で役員給与と役員賞与の支給日・金額を総社員の同意で決める。
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その定時社員総会の日を職務執行の開始日とする
総会で決めた報酬は、その総会から次の定時社員総会までの職務執行の対価とし、総会の開催日を職務執行期間の開始日とする。
この事実関係を前提として、事前確定届出給与に該当し、届出期限は定時社員総会の開催日から1か月を経過する日と考えてよい、とされました。
なお、合同会社の業務執行社員の報酬については、会社法で民法の委任の規定が準用されており(会社法593条4項)、特約がなければ報酬を請求できないのが原則です。定款や総社員の同意などで、報酬を支給する根拠をはっきりさせておくことが大切です。
■ 届出期限にも要注意
事前確定届出給与の届出期限は、原則として報酬を決めた社員総会などの決議の日(職務執行の開始日のほうが早ければ開始日)から1か月を経過する日です。ただし、その日が事業年度開始の日から4か月を経過する日より後になる場合は、4か月を経過する日が期限になります。
株式会社では、一般的に定時株主総会の日が職務執行の開始日と考えられています。一方、合同会社の社員には会社法上の任期や選任の決議の定めがないため、職務執行の開始日がいつなのかがはっきりしません。
先ほどの文書回答では、国税局が「定時社員総会の日を開始日とみなす」と決めたのではなく、会社が自ら定時社員総会の日を職務執行の開始日と定めていることを前提に、差し支えないと回答しています。
つまり、定時社員総会を開いて報酬を決める運用を定款などで明確にしておかないと、届出期限をめぐって税務署と見解が分かれるおそれがあります。
■ よくある誤解とリスク
実務では次のような誤解が少なくありません。
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「合同会社でも株式会社と同じように届出書を出せばいい」
→ ✕ 届出以前に、定款・決議の体制が整っていないと、職務の執行期間や届出期限をめぐって見解が分かれ、損金算入が認められないおそれがあります。
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「任期を決めていなくても実態として続けていれば大丈夫」
→ ✕ 任期がはっきりしないと、職務の執行期間や届出期限をめぐって見解が分かれるおそれがあります。
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「社員同士で口頭合意しておけば問題ない」
→ ✕ 後から説明できるよう、定款の定めや社員総会の議事録など、書面で根拠を残しておくことが大切です。
■ 実務対応のチェックリスト
合同会社で事前確定届出給与を採用する場合、文書回答の事実関係を参考に、以下の5点を確認しておきましょう。
- ☑ 定款に「業務執行社員の任期」を定めている
- ☑ 事業年度終了後、定時社員総会を開いて報酬を決める運用になっている
- ☑ 定時社員総会の日を職務執行の開始日とすることが明確になっている
- ☑ 報酬・賞与の支給日と金額を総社員の同意で決め、議事録を残している
- ☑ 届出書を期限(原則として総会の日から1か月を経過する日。事業年度開始から4か月を経過する日のほうが早ければその日)までに提出している
これらがそろっていれば、文書回答と同じような考え方で説明しやすくなります。ただし、事実関係が違えば取扱いが変わることもあるため、個別に確認することが大切です。
■「設計」が大事
事前確定届出給与は、「届出書を提出すること」が目的ではありません。
定款・決議・届出・支給のすべてが整合していることが前提です。
合同会社のように制度設計の自由度が高い形態では、「税務の仕組みを事前に織り込んだ定款づくり」が不可欠です。
届出よりもまず、設計段階で税務リスクを防ぐこと。
それが、今後の合同会社経営における最も重要な視点といえるでしょう。
※本記事は令和8年9月19日現在の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。実際の取扱いは、個別の事実関係によって異なります。