建設業、運送業、製造業、サービス業などでは、個人事業者や一人親方へ仕事を依頼し、その対価を外注費として支払うことがあります。
外注先が開業届を提出している、請求書を毎月発行している、インボイス登録をしているといった場合でも、その支払いが税務上必ず外注費になるとは限りません。
契約書の名称が「業務委託契約」「請負契約」であっても、実際には会社が勤務時間や作業方法を決め、本人以外の代替を認めず、会社の道具を使って従業員と同じように働いている場合には、給与として取り扱うべきではないか検討されることがあります。
外注費が給与と判断されると、会社の源泉所得税だけでなく、消費税の仕入税額控除にも影響します。
ただし、一つの項目だけで外注費か給与かが決まるわけではありません。現場の安全管理上必要な指示、元請会社から指定された作業時間、軽微な工具の貸与など、業務の性質上当然に生じる事情もあります。
税務調査の連絡を受けてから契約書を作るのではなく、契約内容と日々の働き方が一致しているか、平常時から確認しておくことが重要です。
外注費と給与は契約書の名称だけで決まらない
国税庁は、大工、左官、とび職などが受ける報酬について、請負契約またはこれに準ずる契約に基づく対価であれば事業所得、雇用契約またはこれに準ずる契約に基づく対価であれば給与所得になるとしています。
問題になるのは、契約書だけでは請負か雇用かが明らかでない場合です。その場合には、次の5つの事情を総合して判断します。これが税務調査でも確認の軸となるポイントです。
- 本人以外の人に代わって仕事をさせることが認められているか
- 作業時間や勤務日について、通常の業務上必要な範囲を超える拘束を受けているか
- 作業の具体的な内容や方法について指揮監督を受けているか
- 仕事が完成しなかった場合でも、それまで働いた時間分の報酬を請求できるか
- 材料、機械、車両、主要な工具などを誰が負担しているか
これらのうち、一つに該当しただけで直ちに給与になるわけではありません。例えば、現場への入場時刻を元請会社から指定されている、安全管理のため作業手順について一定の指示を受けている、電動の手持ち工具を借りているという事情だけで、必ず給与と判断されるものではありません。
契約の目的、報酬の決め方、仕事を完成させる責任、損失の負担などを含めて実態を確認します。
税務調査で確認されやすい資料
外注費が多い事業者の税務調査では、総勘定元帳に外注費が記載されていることだけでなく、誰に、どのような仕事を依頼し、どのように金額を決めたかが確認されることがあります。一般的には、次のような資料を準備します。
- 業務委託契約書、請負契約書
- 工事ごとの発注書、注文請書
- 見積書
- 外注先から受け取った請求書
- 作業内容、施工範囲、成果物が分かる資料
- 工程表、作業日報、工事台帳
- 現場への入退場記録
- 報酬単価表と計算明細
- 銀行振込記録、現金支払の領収書
- 外注先のインボイス登録番号
- 材料、工具、車両などの負担者が分かる資料
- 手直し工事や損害が生じた場合の負担記録
- 外注先が加入している事業者向け保険の資料
- 外注先が他社からも受注していることが分かる資料
- 再委託や補助者の使用に関する契約条項
- 外注先とのメールや業務用チャット
契約書と請求書があっても、記載内容と実際の働き方が異なれば、書類だけで外注費と認められるとは限りません。反対に、書面契約が十分でなくても、独立した事業者として仕事を請け負っている実態を客観的な資料で説明できる場合があります。
実際に聞かれやすい質問
税務調査では、会社の経営者や経理担当者だけでなく、現場責任者へ働き方を確認されることもあります。
「外注先は仕事を断ることができますか」
会社から依頼された仕事を自由に断れるか、事実上すべての依頼を受けなければならない関係になっていないかを確認します。仕事を断る自由がなく、会社が一方的に勤務日を決めている場合には、雇用に近い事情となる可能性があります。
ただし、継続的な請負契約により一定期間の業務を受託している場合もあるため、断れないという一つの事情だけで判断することはできません。
「本人が来られないとき、別の人を手配できますか」
請負では、契約内容に反しない範囲で、受注者が補助者を使ったり、別の作業員を手配したりできる場合があります。一方、会社が本人の技能や労務提供そのものを求め、本人以外の代替を認めていない場合には、給与に近い事情となります。
資格や入場許可が必要な現場など、業務の性質上、代替が制限される場合もあります。
「毎日の作業内容は誰が決めていますか」
会社が作業結果や納期を指定することは、請負でも通常あります。問題になるのは、会社の現場責任者が、従業員と同じように作業の順序、方法、休憩時間、細かな手順まで継続的に指示している場合です。
現場の安全確保や他業者との工程調整のために必要な指示と、雇用関係に近い指揮監督は分けて確認します。
「報酬はどのように計算していますか」
工事1件、施工面積、運送件数、完成した製品数など、仕事の成果に応じて報酬を決めているかを確認します。「1日2万円」「1時間3,000円」のように時間を単位として計算し、働いた日数や時間に応じて支払っている場合には、給与に近い事情となることがあります。
もっとも、請負金額の算定基礎として人工単価を使用することもあります。人工単価で見積もっているという理由だけで、直ちに給与になるわけではありません。見積段階の計算基礎なのか、実際に働いた日数に対する日給なのかを区別する必要があります。
「仕事が完成しなかった場合でも報酬を支払いますか」
不可抗力や受注者側の事情で仕事が完成しなかった場合に、既に働いた時間分の報酬を当然に請求できるかを確認します。完成しなくても勤務時間に応じて報酬を受け取れるのであれば、給与に近い事情となります。
一方、受注者が完成責任を負い、手直し費用や追加作業を自己負担する場合には、請負に近い事情となります。
「材料や道具は誰が準備していますか」
主要な材料、機械、車両、特殊工具などを外注先が自己負担で用意している場合は、独立した事業者であることを示す事情の一つになります。反対に、会社が主要な資機材をすべて準備し、本人は労務だけを提供している場合には、給与に近い事情となる可能性があります。
ただし、くぎなどの軽微な材料や電動の手持ち工具程度の貸与だけで、直ちに給与になるわけではありません。
開業届やインボイス登録だけでは決まらない
外注先が税務署へ開業届を提出し、毎年事業所得として確定申告していても、支払者側の税務処理が当然に外注費になるわけではありません。また、外注先がインボイス発行事業者として登録し、登録番号を記載した請求書を発行していても同様です。
税務上の区分は、主に次のような事情を含む実際の契約関係と働き方を基に判断します。
- 誰が仕事の完成責任を負っているか
- 仕事の進め方を誰が決めるか
- 報酬が成果に対する対価か、労働時間に対する対価か
- 損失や手直し費用を誰が負担するか
- 他の取引先から受注できるか
- 材料や主要な機械を誰が用意するか
形式上の資料を整えることは重要ですが、外注先の働き方を変えずに契約書の名称だけを変更しても、税務上の問題を解消できるとは限りません。
具体例で確認
岡山県内の建設会社が、一人親方Aさんへ年間600万円を支払い、外注費として処理していたケースを考えます。会社とAさんの状況は、次のとおりです。
- 契約書の名称は「業務委託契約書」
- Aさんは毎月、稼働日数に日額を掛けた請求書を発行している
- 稼働日は会社の現場監督が決めている
- 作業開始時刻、終了時刻、休憩時間は従業員と同じ
- 日々の作業内容は現場監督が具体的に指示している
- Aさんが休む場合、代わりの作業員を手配することは認められていない
- 主要な材料、車両、機械、工具は会社が用意している
- 作業に手直しが生じても、費用は会社が負担する
- Aさんは年間を通じて、この会社の仕事だけをしている
この場合、業務委託契約書や請求書があっても、実際にはAさんが会社の指揮監督を受け、勤務時間に応じて報酬を受け取っているとして、給与に該当しないか検討される可能性があります。
一方、次のような事情があれば、請負として説明しやすくなることがあります。
- 工事や施工範囲ごとに請負金額を決めている
- Aさんが作業方法や人員配置を決めている
- 契約上、一定の範囲で補助者や代替者を使用できる
- Aさんが主要な工具や車両を用意している
- 不具合があればAさんの負担で手直しをする
- Aさんが他社の仕事も受注している
- 工事が完成しなければ原則として請負代金を請求できない
実際の判断では、これらの事情の有無と重要性を総合的に検討します。「他社の仕事が一件あれば外注になる」「日当払いなら必ず給与になる」といった一律の基準はありません。
給与と指摘された場合の税務上の影響
源泉所得税
給与を支払う会社は、原則として給与から所得税および復興特別所得税を源泉徴収し、所定の期限までに納付する必要があります。外注費として支払い、源泉徴収をしていなかった金額が給与と判断されると、過去の給与について源泉所得税を再計算し、会社が納付を求められる可能性があります。
追加納付する源泉所得税には、不納付加算税や延滞税が生じることもあります。源泉徴収税額は、支払日、支給方法、扶養控除等申告書の有無などによって異なるため、単純に支払額へ一定率を掛けるとは限りません。
外注先本人が事業所得として確定申告し、所得税を納付していた場合でも、会社の源泉徴収義務が当然になくなるとは限りません。会社と本人の双方について、重複納付にならないための手続を個別に整理する必要があります。
消費税の仕入税額控除
請負による外注費は、要件を満たせば消費税の課税仕入れとなります。一方、給与を対価とする労務提供は、消費税の課税仕入れに該当しません。
例えば、会社がAさんへ税込600万円を外注費として支払い、原則課税で約54万5,454円の仕入税額控除をしていたとします。
600万円 × 10 / 110 = 約54万5,454円
この支払いが給与と判断されると、原則として、その仕入税額控除が認められず、会社の消費税納付額が増加する可能性があります。Aさんがインボイス発行事業者であり、適格請求書を発行していた場合でも、実態が給与であれば課税仕入れにはなりません。
なお、簡易課税、2割特例、3割特例などを適用している課税期間では、外注費ごとの実額を使って仕入税額控除を計算しないため、影響の現れ方が異なります。
法人税や所得税
実際に業務が行われ、その支払額が事業に必要な適正額であれば、外注費から給与へ科目を変更したことだけを理由に、法人税上の損金や事業所得の必要経費が全額否認されるとは限りません。
ただし、架空外注費、支払額の水増し、家族や役員への実態のない支払いなどが含まれていれば、損金性自体が問題になります。また、支払先が役員や特殊関係者である場合には、役員給与、寄附金、利益供与など別の規定を検討することがあります。
加算税や延滞税
源泉所得税や消費税の追加納付が生じる場合には、不納付加算税、過少申告加算税、延滞税などが発生する可能性があります。契約書と異なる働き方を意図的に隠していた、実在しない外注先の請求書を作成したといった事情がある場合には、重加算税が問題になることもあります。
ただし、外注か給与かについて判断を誤ったという理由だけで、当然に重加算税が課されるわけではありません。契約内容、認識、記帳状況、税理士への資料提供などを基に個別に判断されます。
社会保険や労働法上の取扱いも別途確認する
税務上の給与所得・事業所得の区分と、労働基準法上の労働者性、社会保険・労働保険の加入関係は、根拠となる法律や判定目的が同じではありません。税務上給与と判断されたから、すべての法律で直ちに従業員になると一律に決まるわけではありません。
一方、契約書上は一人親方やフリーランスであっても、実際には会社の指揮監督を受けて働いている場合には、労働基準法上の労働者に該当する可能性があります。雇用保険、社会保険、労働時間、割増賃金、労災保険などへ影響することもあるため、税理士だけでなく、社会保険労務士や弁護士などの専門家と連携して確認することが重要です。
税務調査前にできる対応
外注先ごとに働き方を一覧にする
外注先の氏名、依頼業務、報酬の決め方、稼働場所、指示者、資機材の負担、他社取引の有無などを一覧にします。特に、毎月ほぼ同額を支払い、長期間自社だけで働いている個人については、契約内容と実態を詳しく確認しましょう。
契約書を実態に合わせる
請負であれば、業務の範囲、成果物、請負代金、納期、完成責任、検収、手直し、再委託、資機材の負担などを明確にします。単に「業務を委託する」「報酬は月額30万円」と記載するだけでは、請負の具体的な内容を説明できないことがあります。
ただし、実態が従業員に近い場合に、契約書だけを請負形式へ変更することは適切ではありません。必要に応じて雇用契約への変更も検討します。
発注書と請求書を業務ごとに対応させる
どの工事、現場、業務に対する支払いか分かるよう、発注書、作業報告書、検収記録、請求書を対応させます。「7月分外注費一式」だけでは、成果物や計算根拠が分かりません。
人工計算の意味を明確にする
建設業では、請負金額を見積もるために人工数を使用することがあります。人工数が請負金額の見積基礎なのか、実際の出勤日数に応じて支払う日給なのかを区別し、見積書や精算方法に反映します。
現場責任者へ契約内容を共有する
経営者が請負として契約していても、現場責任者が外注先を従業員と同じように管理していれば、契約書と実態が一致しなくなります。請負先に対して指示できる範囲、安全管理上必要な連絡、成果物の確認方法などを社内で共有しておきましょう。
判断根拠を毎年見直す
契約当初は独立した請負だったとしても、取引が長期化する中で、自社専属となり、勤務時間や作業方法を会社が管理するようになることがあります。契約開始時だけでなく、毎年、決算前に実際の働き方を確認することが重要です。
まとめ
一人親方や個人事業者への支払いが外注費か給与かは、開業届、請求書、インボイス登録、契約書の名称だけで決まるものではありません。
本人以外の代替が認められるか、時間的な拘束を受けているか、会社から具体的な指揮監督を受けているか、完成責任を誰が負うか、主要な材料や工具を誰が用意するかなどを総合して判断します。
外注費が給与と判断された場合には、源泉所得税の徴収漏れや、消費税の仕入税額控除の否認につながる可能性があります。一方、現場の安全管理上必要な指示がある、手持ち工具を借りているという一つの事情だけで、必ず給与になるわけではありません。業務の性質や契約全体を踏まえた個別判断が必要です。
税理士法人アストラストでは、外注先ごとの契約内容と働き方の確認、外注費・給与の税務判定、源泉所得税と消費税への影響試算、契約書や発注書・請求書の整理、税務調査前の帳簿確認まで対応しています。
岡山県内で一人親方への支払いが多い建設会社、同じ個人へ毎月定額の業務委託料を支払っている事業者、従業員と外注先の働き方が似ている会社は、税務調査の連絡を受ける前にご相談ください。
※本記事は令和8年7月15日現在の法令および国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。外注費と給与の区分は、契約書、報酬の計算方法、指揮監督、完成責任、代替性、資機材の負担など、個々の事実関係によって異なります。労働基準法上の労働者性や社会保険の適用については、税務上の判定とは別に専門家への確認が必要です。実際の判断にあたっては、顧問税理士等にご確認ください。