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2割特例の終了後はどうなる?個人事業者の「3割特例」と法人の消費税対策

2026.07.18

インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者となった方の多くは、消費税の納付税額を売上税額の2割とする「2割特例」を利用しています。

しかし、2割特例は、令和8年9月30日までの日が属する課税期間で終了します。個人事業者の場合、原則として令和8年分の消費税申告までは2割特例を利用できますが、令和9年分以降は同じ計算を続けることができません。

そこで令和8年度税制改正により、一定の個人事業者について、令和9年分と令和10年分の納付税額を売上税額の3割とする「3割特例」が創設されました。

一方、法人には3割特例がありません。法人は2割特例が終了した後、原則課税または簡易課税によって申告することになります。

また、個人事業者であっても、全員が3割特例を利用できるわけではありません。基準期間の課税売上高、インボイス登録以外の理由で課税事業者となっていないか、高額な設備投資をしていないかなどを確認する必要があります。

2割特例の終了直前になってから考えるのではなく、令和8年中に原則課税、簡易課税、3割特例の納税額を比較しておくことが大切です。


2割特例はいつ終了する?

2割特例を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日が属する課税期間です。個人事業者の課税期間は、通常、1月1日から12月31日までです。そのため、課税期間の短縮をしていない一般的な個人事業者は、次のようになります。

申告年分2割特例
令和5年分対象となる可能性あり
令和6年分対象となる可能性あり
令和7年分対象となる可能性あり
令和8年分対象となる可能性あり
令和9年分以降適用不可

令和8年分の消費税申告期限は、原則として令和9年3月31日です。

2割特例が令和8年9月30日に終了するからといって、個人事業者が令和8年10月から12月までの売上げについて別の方法で計算するわけではありません。令和8年分という一つの課税期間に令和8年9月30日が含まれているため、要件を満たせば、令和8年1月から12月までの申告について2割特例を適用できます。

ただし、課税期間を1か月または3か月に短縮している事業者などは取扱いが異なります。


法人は決算月によって最後の適用年度が異なる

法人の課税期間は、原則として事業年度と同じです。したがって、法人が2割特例を最後に適用できる事業年度は、決算月によって異なります。

例えば、3月決算法人であれば、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの課税期間には令和8年9月30日が含まれています。そのため、他の要件を満たしていれば、令和9年3月期まで2割特例を適用できる可能性があります。一方、令和9年4月1日から令和10年3月31日までの課税期間には令和8年9月30日が含まれないため、2割特例を適用できません。

重要なのは、法人には、2割特例終了後の3割特例が用意されていないことです。法人は、2割特例を適用できなくなる課税期間から、原則課税または簡易課税へ移行します。決算月だけでなく、簡易課税制度選択届出書の提出時期も確認する必要があります。


3割特例とは

3割特例は、インボイス発行事業者の登録を受けたことなどにより、免税事業者から課税事業者となった一定の個人事業者について、納付税額を売上税額の3割とする制度です。適用対象となるのは、個人事業者の令和9年分および令和10年分の消費税申告です。基本的な計算は次のとおりです。

売上げに係る消費税額 - 売上げに係る消費税額 × 70% = 納付税額

言い換えると、売上税額の70%を仕入税額とみなして控除し、残りの30%を納付します。

3割特例を利用するために、原則として事前の届出は必要ありません。適用を受ける年分の消費税確定申告書に、3割特例を適用する旨を付記します。ただし、インボイス発行事業者としての請求書交付義務や、帳簿・請求書等の保存義務がなくなるわけではありません。


3割特例を利用できる主な要件

3割特例を利用するためには、主に次の要件を確認します。

個人事業者であること

3割特例の対象は個人事業者です。株式会社、合同会社、医療法人、一般社団法人などの法人は利用できません。個人事業を法人化した場合には、個人事業者としての3割特例を新設法人へ引き継ぐこともできません。

インボイス発行事業者であること

3割特例は、適格請求書発行事業者、いわゆるインボイス発行事業者が対象です。インボイス登録をしていない課税事業者は、3割特例を利用できません。

基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること

令和9年分に3割特例を適用する場合には、基準期間である令和7年の課税売上高を確認します。令和10年分に適用する場合には、令和8年の課税売上高を確認します。

適用年分基準期間
令和9年分令和7年
令和10年分令和8年

基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合は、インボイス登録がなくても本来課税事業者となるため、3割特例を利用できません。「令和9年の売上高が1,000万円以下か」ではなく、原則として2年前の課税売上高で判定する点に注意しましょう。

インボイス登録がなければ免税事業者だったこと

3割特例は、インボイス登録などを理由として免税事業者から課税事業者になった方の負担を軽減する制度です。そのため、インボイス登録と関係なく課税事業者となる場合には、3割特例を適用できない可能性があります。例えば、次のような場合です。

  • 基準期間の課税売上高が1,000万円を超えている
  • 特定期間の課税売上高と給与等支払額の判定により課税事業者となる
  • インボイス制度と関係なく提出した課税事業者選択届出書の効力により課税事業者となっている
  • 高額特定資産や調整対象固定資産の取得により免税事業者になれない
  • 相続などに関する納税義務の特例に該当する
  • 課税期間を1か月または3か月に短縮している

なお、インボイス制度を機に課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった個人事業者は、一定の要件のもとで3割特例の対象となる可能性があります。届出書を提出した時期や理由によって取扱いが異なります。

実際の適用可否は、過去の売上高、提出済みの届出書、設備投資、相続による事業承継などを含めて確認する必要があります。


3割特例の計算例

岡山県内でデザイン業を営む個人事業者を例に考えます。令和9年中の取引が、すべて標準税率10%の課税取引で、次の金額だったとします。

項目金額
税込課税売上高1,100万円
税抜課税売上高1,000万円
売上げに係る消費税額100万円

3割特例による納付税額は、単純計算で次のようになります。

3割特例:100万円 × 30% = 30万円

2割特例であれば20万円でしたので、同じ売上高であれば、2割特例から3割特例へ移行することで納付税額は10万円増える計算です。

2割特例:100万円 × 20% = 20万円

実際の申告では、国税と地方消費税を区分し、軽減税率対象売上げ、売上対価の返還、貸倒れ、端数処理などを反映します。上記は制度の違いを説明するための概算です。


3割特例が最も有利とは限らない

3割特例を利用できる個人事業者でも、必ず3割特例が有利になるわけではありません。申告時には、原則課税、簡易課税、3割特例のうち、適用可能な方法を比較する必要があります。

小売業は簡易課税の方が少なくなる場合がある

小売業に簡易課税を適用する場合、一般に第2種事業となり、みなし仕入率は80%です。売上税額が100万円の場合、簡易課税による納付税額は、単純計算で次のとおりです。

100万円 ×(1 - 80%)= 20万円

3割特例では30万円であるため、この例では簡易課税の方が10万円少なくなります。

卸売業はさらに差が出ることがある

卸売業は一般に第1種事業となり、みなし仕入率は90%です。

100万円 ×(1 - 90%)= 10万円

この例では、3割特例の30万円より、簡易課税の10万円の方が少なくなります。

建設業や製造業は同程度になることがある

建設業や製造業は一般に第3種事業となり、みなし仕入率は70%です。

100万円 ×(1 - 70%)= 30万円

単純計算では、3割特例と同額です。ただし、複数の事業を営んでいる場合、固定資産を売却した場合、事業区分をしていない場合などは計算結果が変わることがあります。

サービス業は3割特例の方が少なくなることがある

サービス業は一般に第5種事業となり、みなし仕入率は50%です。

100万円 ×(1 - 50%)= 50万円

この例では、簡易課税の50万円より、3割特例の30万円の方が少なくなります。このように、どの方法が有利かは業種によって異なります。


みなし仕入率と納付割合の比較

簡易課税の事業区分ごとの納付割合と、3割特例を比較すると、次のようになります。

事業区分主な事業みなし仕入率売上税額に対する納付割合
第1種卸売業90%10%
第2種小売業など80%20%
第3種建設業、製造業など70%30%
第4種飲食店業など60%40%
第5種サービス業など50%50%
第6種不動産業40%60%
3割特例対象となる個人事業者70%相当を控除30%

この表だけを見ると、卸売業や小売業は簡易課税が有利になりやすく、サービス業や不動産業は3割特例が有利になりやすいように見えます。ただし、複数の業種を営んでいる場合の特例計算、事業区分の誤り、固定資産売却などを考慮する必要があります。

また、簡易課税制度を選択すると、原則として2年間は継続適用しなければなりません。翌年に大きな設備投資を予定していても、すぐに原則課税へ戻れない可能性があります。


原則課税と比較する

原則課税では、売上げに係る消費税額から、仕入れや経費に係る控除対象の消費税額を差し引いて納付税額を計算します。前記の例で、売上税額が100万円の場合を考えます。

控除できる仕入税額が65万円の場合

100万円 - 65万円 = 35万円

3割特例の納付税額は30万円なので、この例では3割特例の方が5万円少なくなります。

控除できる仕入税額が85万円の場合

100万円 - 85万円 = 15万円

この例では、原則課税の方が3割特例より15万円少なくなります。

原材料や商品の仕入れが多い事業、外注費が多い建設業、店舗改装を行う飲食業などでは、原則課税の方が有利になる可能性があります。ただし、原則課税で仕入税額控除を受けるためには、帳簿とインボイス等の保存が原則として必要です。居住用住宅の家賃、人件費、一定の保険料など、支払いがあっても仕入税額控除の対象にならないものもあります。


設備投資を予定している場合は3割特例だけで決めない

令和9年または令和10年に、車両、機械、店舗設備、事業用建物などを購入する場合には、契約前に原則課税との比較が必要です。例えば、売上税額が100万円で、設備投資や通常経費に係る控除可能な仕入税額が150万円となる場合を考えます。

原則課税で必要な要件を満たしていれば、単純計算では次の還付額になります。

100万円 - 150万円 = マイナス50万円

この場合、原則課税であれば50万円の還付が生じる可能性があります。一方、3割特例では、売上税額の30%を納付します。

100万円 × 30% = 30万円

簡易課税や3割特例では、実際に支払った仕入税額を使わないため、多額の設備投資を行っても通常は還付になりません。ただし、設備投資の内容、課税売上割合、インボイスの保存、高額特定資産や調整対象固定資産に関する制限によって取扱いは異なります。

設備の発注や建物の契約を済ませてから相談すると、選択できる計算方法や届出時期が限られることがあります。


3割特例自体には事前届出が不要

3割特例を適用するための事前届出書はありません。令和9年分または令和10年分の消費税確定申告書へ、3割特例の適用を受ける旨を付記します。そのため、申告時に原則課税や簡易課税と納付税額を比較することができます。

ただし、簡易課税制度は別です。簡易課税を利用するためには、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。3割特例と簡易課税を比較したい場合は、届出書の提出期限を過ぎないように管理しましょう。


2割特例・3割特例の後に簡易課税へ移行する特例

令和8年度税制改正では、2割特例または3割特例から簡易課税制度へ移行しやすくする措置も設けられました。

2割特例または3割特例を適用した課税期間の翌課税期間から簡易課税を利用する場合、原則的な事前期限を過ぎていても、その翌課税期間の消費税確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、翌課税期間から簡易課税を適用できる場合があります。

例えば、個人事業者が令和10年分まで3割特例を利用し、令和11年分から簡易課税へ移行する場合です。国税庁の資料では、令和11年分の消費税確定申告期限である令和12年4月1日までに、令和11年分から適用する旨を記載した簡易課税制度選択届出書を提出する例が示されています。

また、令和8年分に2割特例を適用した個人事業者が、令和9年分から3割特例ではなく簡易課税を選択することも考えられます。届出期限の特例が使えるかは、直前の課税期間に実際に2割特例または3割特例を適用したか、翌課税期間の終了日や申告期限などによって判断します。通常の簡易課税の届出期限と混同しないよう、個別に確認してください。


3割特例を利用するときも経理資料は保存する

3割特例では、実際の仕入税額を集計せず、売上税額を基に納付税額を計算します。そのため、3割特例の計算上は、原則課税のように仕入税額控除のためのインボイスを一件ずつ確認する必要はありません。

しかし、「経費の領収書や請求書を保存しなくてよい」という意味ではありません。所得税の必要経費、青色申告、電子取引データ、将来の原則課税への移行などのため、次の資料は引き続き保存しましょう。

  • 売上帳、現金出納帳、預金出納帳
  • 請求書、領収書、納品書
  • インボイスの写し
  • クレジットカードや決済サービスの明細
  • 通販サイトや予約サイトの売上明細
  • 仕入れ・外注費の請求書
  • 固定資産台帳
  • 設備投資の契約書と請求書
  • 過去に提出した消費税関係の届出書
  • インボイス登録通知書

また、インボイス発行事業者として、取引先から求められた場合には、適格請求書を交付し、その写しを保存する必要があります。


令和8年中に確認したいこと

2割特例の終了に備え、個人事業者と法人はそれぞれ次の項目を確認しましょう。

個人事業者

  • 令和7年と令和8年の課税売上高
  • 令和9年分・令和10年分の3割特例の適用可否
  • 特定期間による課税事業者判定
  • 課税事業者選択届出書の提出状況
  • 過去の高額な設備投資
  • 令和9年・令和10年の設備投資予定
  • 簡易課税の事業区分
  • 原則課税、簡易課税、3割特例の納税額
  • 消費税の納税資金

法人

  • 2割特例を最後に適用できる事業年度
  • 3割特例は利用できないこと
  • 原則課税と簡易課税の比較
  • 簡易課税制度選択届出書の提出期限
  • 基準期間の課税売上高が5,000万円以下か
  • 翌期の車両、機械、建物などの取得予定
  • 免税事業者等への外注費や仕入れ
  • 納税額増加を踏まえた資金繰り

2割特例のときと同じ金額を納税資金として準備していると、制度終了後に資金不足となる可能性があります。決算時だけでなく、毎月の売上高から消費税の概算額を積み立てる方法も検討しましょう。


まとめ

2割特例は、令和8年9月30日までの日が属する課税期間で終了します。一般的な個人事業者は令和8年分まで2割特例を利用できる可能性があり、その後、一定の要件を満たせば、令和9年分と令和10年分について3割特例を利用できます。

ただし、3割特例の対象は個人事業者に限られ、法人は利用できません。また、個人事業者でも、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合や、インボイス登録以外の理由で課税事業者となる場合などは対象外となる可能性があります。

卸売業や小売業では簡易課税の方が有利になる場合があり、多額の設備投資がある場合には原則課税の方が有利になることもあります。3割特例、簡易課税、原則課税の有利不利は、業種、実際の経費、設備投資、過去の届出によって変わります。3割特例を利用できるからという理由だけで、計算方法を決めないことが重要です。

税理士法人アストラストでは、2割特例を最後に適用できる課税期間の確認、3割特例の適用判定、原則課税・簡易課税との納税額比較、簡易課税制度選択届出書の期限管理、設備投資前の消費税試算まで対応しています。

岡山県内でインボイス登録をしている個人事業者、2割特例を利用している法人、令和9年以降に車両・機械・店舗設備の購入を予定している事業者の方は、令和8年中に今後の計算方法をご相談ください。

※本記事は令和8年7月18日現在の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。3割特例の適用可否、簡易課税の届出期限、設備投資による影響は、課税期間、基準期間・特定期間の売上高、過去の届出、インボイス登録日、資産の取得状況などによって異なります。実際の判断にあたっては、顧問税理士等にご確認ください。

参考資料

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