取引先との会食代を会社の経費として処理する際、飲食店の領収書があれば十分だと思っていないでしょうか。
領収書によって、飲食店へ代金を支払った事実は確認できます。しかし、その領収書だけでは「誰と行ったのか」「仕事とどのような関係があるのか」「何のための会食だったのか」までは分かりません。
税務調査では、交際費の領収書を見ながら、次のような質問を受けることがあります。
- 「このお店には誰と行きましたか」
- 「相手はどこの会社の人ですか」
- 「会食の目的は何ですか」
- 「参加人数は何人ですか」
- 「なぜ休日に利用しているのですか」
調査対象となるのは、領収書があるかどうかだけではありません。その支出が会社の事業に必要なものか、社長や役員の個人的な飲食ではないかという点も確認されます。
税務調査の際に数年前の会食相手を思い出すのは難しいため、支払った時点で参加者や目的を記録しておくことが重要です。
領収書で分かるのは「支払った事実」
飲食店の領収書には、通常、次のような情報が記載されています。
- 利用年月日
- 飲食店の名称
- 支払金額
- 消費税額
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 支払方法
これらの情報から、いつ、どの店に、いくら支払ったかは確認できます。
しかし、領収書だけでは次の内容を確認できません。
- 誰と飲食したのか
- 参加者は何人だったのか
- 相手と会社の関係
- 会食を行った目的
- 会社の事業とどのような関係があるのか
- 社長や役員の私的な飲食ではないか
つまり、領収書は支払いを証明する資料ではありますが、その支出が会社の経費であることをすべて説明する資料ではありません。
税務調査で交際費が確認されやすい理由
交際費は、事業上の会食と個人的な飲食の境界が分かりにくい経費です。
例えば、同じ飲食店で同じ金額を支払っていても、取引先との商談であれば事業に関係する支出となる可能性がありますが、家族との食事であれば原則として会社の経費にはなりません。
税務調査では、特に次のような支出について詳しい説明を求められることがあります。
- 高額な飲食代
- 同じ飲食店を頻繁に利用している
- 土曜日、日曜日、祝日の利用が多い
- 深夜の飲食代が多い
- 自宅近くの飲食店を利用している
- 参加者や目的が記録されていない
- 社長の個人カードで支払っている
- 家族の記念日と重なる支出がある
- 売上規模に比べて交際費が多い
- 「会議費」として処理した飲食代が多い
これらに該当するからといって、直ちに経費として認められないわけではありません。
休日や深夜であっても、取引先との商談や接待が行われることはあります。重要なのは、会社の事業との関係を客観的に説明できることです。
「どこの誰と行ったか」を記録する
交際費を支払った場合には、少なくとも次の内容を記録しておきましょう。
1.参加者の氏名
取引先の担当者、紹介者、自社の参加者など、会食へ参加した人の氏名を記録します。
人数だけを「4名」と記載するのではなく、可能な範囲で参加者を特定できるようにします。
2.会社名や事業上の関係
氏名だけでは、会社との関係が分からないことがあります。
例えば、次のように記録します。
- 株式会社○○ 営業部 田中様
- ○○工業 代表取締役 佐藤様
- 当社仕入先 ○○商店
- 新規取引予定先 株式会社○○
- 顧客紹介者 山田様
- 当社代表、営業担当者2名
税務調査では、単に「田中さん」と書いてあっても、その人が誰なのか確認できない可能性があります。
会社名、役職、取引関係などを併記しておくと、事業との関係を説明しやすくなります。
3.会食の目的
会食を行った理由も記録します。
例えば、次のような内容です。
- 新規取引に関する打合せ
- 工事受注後の情報交換
- 仕入条件の協議
- 顧客紹介のお礼
- 決算報告後の懇親会
- 取引先担当者の歓送迎会
- 業界団体の会合後の懇親会
「接待」「打合せ」とだけ書くより、どの案件に関する会食だったのかが分かるように記録する方が望ましいでしょう。
領収書の裏に書けばよい?
紙の領収書を保存している場合は、領収書の裏面や交際費精算書へ、参加者、会社名、人数、目的などを記載する方法があります。
ただし、感熱紙の領収書は時間の経過により文字が薄くなることがあります。スキャンやスマートフォンで画像を保存し、会計ソフトの証憑データへ参加者などを入力しておく方法も有効です。
電子保存する場合には、電子帳簿保存法の要件にも注意が必要です。
記録方法は、次のような形でも構いません。
利用日:令和8年7月10日
飲食店:○○割烹
参加者:株式会社○○・田中社長、佐藤部長、当社代表・三宅
人数:3名
目的:新規店舗の顧問契約および資金計画に関する情報交換
領収書とこの記録を一緒に保存しておけば、数年後に税務調査を受けても、会食の内容を確認しやすくなります。
1人当たり1万円以下でも記録が必要
令和6年4月1日以後に支出する飲食費については、1人当たりの金額が1万円以下で、一定の要件を満たす場合には、法人税法上の交際費等の範囲から除外できます。
ただし、取引先など社外の事業関係者との飲食であることが前提です。専ら自社の役員や従業員、その親族だけで行う社内飲食費は、この取扱いの対象になりません。
また、1人当たり1万円以下であれば、自動的に交際費等から除外されるわけではありません。
国税庁は、この取扱いを受けるために、次の事項を記載した書類を保存するよう求めています。
- 飲食等を行った年月日
- 参加した取引先などの氏名または名称
- 参加者と会社との関係
- 飲食等に参加した人数
- 飲食費の金額
- 飲食店等の名称と所在地
- その他、飲食費であることを明らかにするために必要な事項
領収書に飲食店名、日付、金額が記載されていても、参加者の氏名、取引関係、人数は通常記載されていません。
そのため、領収書だけを保存していても、1人当たり1万円以下の飲食費を交際費等から除外するための保存要件を満たせない可能性があります。
1人当たり1万円の判定方法
1人当たり1万円以下かどうかは、原則として次の算式で判定します。
飲食費の総額÷飲食等に参加した人数
例えば、取引先2名と自社の役員2名の合計4名で会食を行い、飲食代が36,000円だったとします。
36,000円÷4名=9,000円
1人当たりの金額は9,000円となります。
社外の取引先が参加しており、必要事項を記載した書類を保存しているなどの要件を満たせば、交際費等の範囲から除外できる可能性があります。
一方、飲食代が44,000円だった場合は、次のようになります。
44,000円÷4名=11,000円
1人当たり1万円を超えるため、1万円を超えた部分だけではなく、原則として44,000円全額が交際費等に該当します。
なお、税込経理方式か税抜経理方式かなどにより判定に使用する金額が異なる場合があります。実際の処理は、会社が採用している経理方法に合わせて確認する必要があります。
「会議費」にすれば問題ない?
1人当たり1万円以下の飲食代を、すべて「会議費」と処理している会社もあります。
しかし、勘定科目を会議費にすれば、必ず交際費等に該当しなくなるわけではありません。
税務上は、帳簿上の勘定科目ではなく、支出の実態によって判断します。
取引先を接待する目的で行われた飲食であれば、会計ソフトで「会議費」と入力していても、税務上は交際費等に該当する可能性があります。
反対に、交際費という勘定科目で処理していても、1人当たり1万円以下の社外飲食費として所定の要件を満たしていれば、法人税法上の交際費等から除外できる場合があります。
大切なのは勘定科目の名称ではなく、参加者、目的、金額、実際の利用状況です。
社長が立て替えた交際費にも記録が必要
社長や役員が個人のクレジットカードで飲食代を立て替え、後から会社で精算することがあります。
この場合も、飲食店の領収書や利用明細だけでなく、参加者と目的を記録する必要があります。
個人カードの明細には、店舗名と支払金額しか記載されていないことが多く、誰と利用したかまでは分かりません。
また、カード会社の利用明細だけでは、消費税の仕入税額控除に必要なインボイスの保存要件を満たさないことがあります。飲食店が交付したレシートや領収書も一緒に保存しましょう。
会社による精算が数か月後になると、社長本人も参加者を思い出せなくなる可能性があります。会食後、できるだけ早く記録することが重要です。
税務調査で説明できないとどうなる?
領収書はあるものの、参加者や目的が分からず、事業との関係を説明できない場合には、会社の経費として認められない可能性があります。
特に、社長や役員の家族との飲食、個人的な友人との飲食、私的な旅行中の食事などを会社が負担していた場合には注意が必要です。
法人の経費として認められなければ、法人税の追加負担が生じる可能性があります。
さらに、会社が負担した社長や役員の個人的な飲食代が、役員に対する経済的利益と判断された場合には、役員給与として扱われる可能性があります。
役員給与に該当しても、定期同額給与などの要件を満たさなければ法人の損金に算入できず、役員本人に対する所得税の源泉徴収も問題になります。
そのため、単に交際費の損金算入限度額だけの問題では終わらないことがあります。
税務調査前に確認したい交際費
税務調査の連絡を受けてから、数年分の会食相手を思い出すのは困難です。
日常の経理段階で、次のような交際費を確認しておきましょう。
- 参加者が記録されていない
- 「取引先」「業者」など曖昧な記載しかない
- 参加人数が分からない
- 会食目的が記録されていない
- 領収書の宛名が個人名になっている
- 個人カードの明細しか保存していない
- 高額な飲食費が続いている
- 休日や深夜の利用が多い
- 自宅付近の飲食店を頻繁に利用している
- 家族や友人との飲食が含まれている
- 会議費、福利厚生費、取材費など別科目で処理されている
- 1人当たり1万円以下の判定資料がない
記録が不足している支出については、参加者や目的を確認できるメール、カレンダー、予約記録、会議資料などが残っていないか確認します。
ただし、税務調査の直前に、事実と異なる参加者や目的を記載してはいけません。確認できない事項は無理に作成せず、事実に基づいて説明する必要があります。
社内ルールを決めておく
交際費の記録漏れを防ぐには、会社として統一したルールを設けるのが効果的です。
例えば、交際費を精算する際には、次の項目を必須入力にします。
- 利用日
- 飲食店名
- 支払金額
- 参加人数
- 取引先の会社名
- 参加者の氏名
- 自社の参加者
- 会食の目的
- 関連する案件名
- 領収書またはレシートの画像
これらを経費精算書や会計ソフトへ入力し、情報が不足している場合には精算しないというルールも考えられます。
社長や役員だけを例外にすると記録が残らないため、役職にかかわらず同じルールで運用することが大切です。
まとめ
飲食店の領収書は、代金を支払った事実を示す資料です。しかし、領収書だけでは、誰と、何のために飲食し、会社の事業とどのような関係があったのかまでは説明できません。
税務調査では、会食相手の氏名、会社名、取引関係、参加人数、会食目的などを確認されることがあります。
また、1人当たり1万円以下の社外飲食費を法人税法上の交際費等から除外する場合にも、参加者や人数などを記載した書類の保存が必要です。
税理士法人アストラストでは、交際費や会議費の処理、1人当たり1万円以下の飲食費の判定、税務調査に備えた経費精算ルールの整備について支援しています。
交際費の領収書は多いものの、参加者や目的を記録していない岡山県内の事業者の方は、税務調査を受ける前に一度ご相談ください。
※本記事は令和8年7月19日現在の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。実際の税務上の取扱いは、支出の相手方、目的、金額、会社との関係、保存資料などによって異なります。