小売業、卸売業、製造業、建設業などでは、決算日に残っている商品、製品、原材料、仕掛品などを棚卸資産として計上します。
しかし、実地棚卸しを十分に行わず、倉庫に残っている在庫を帳簿へ反映していないケースがあります。また、長期間売れていない商品について、「もう売れないだろう」という判断だけで評価額をゼロにしていることもあります。
期末棚卸高が少なくなると、その事業年度の売上原価が増え、会社の利益は少なくなります。そのため税務調査では、棚卸表の数量や単価だけでなく、決算日前後の仕入れ・販売、社外倉庫にある商品、評価損や廃棄損の根拠まで確認されることがあります。
売れ残った商品だからといって、直ちに税務上の評価額をゼロにできるわけではありません。一方、破損、品質変化、著しい陳腐化など、一定の事実があり、その価値が回復しないと認められる場合には、評価損を損金に算入できる可能性があります。
税務調査で慌てないためには、決算日に在庫が「いくつあったか」だけでなく、「どこにあったか」「どの単価で評価したか」「なぜ値下げや廃棄が必要だったか」を資料で説明できるようにしておくことが重要です。
期末在庫が利益に影響する仕組み
商品の売上原価は、基本的に次の算式で計算します。
期首棚卸高 + 当期仕入高 - 期末棚卸高 = 売上原価
例えば、次のような会社を考えます。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首棚卸高 | 500万円 |
| 当期仕入高 | 4,000万円 |
| 正しい期末棚卸高 | 700万円 |
正しい売上原価は次のとおりです。
500万円 + 4,000万円 - 700万円 = 3,800万円
ところが、社外倉庫にある商品を数え忘れたことなどにより、期末棚卸高を300万円として申告すると、売上原価は次の金額になります。
500万円 + 4,000万円 - 300万円 = 4,200万円
正しい売上原価3,800万円との差額は400万円です。期末棚卸高を400万円少なく計上した結果、売上原価が400万円多くなり、会社の利益が同額だけ少なく計算されています。
棚卸資産の計上漏れが指摘されると、原則としてその事業年度の所得が増え、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税などの追加納付につながる可能性があります。個人事業者の場合も、事業所得の必要経費が過大になっていれば、所得税などの計算へ影響します。
税務調査では実地棚卸しの方法を確認される
税務調査では、決算書に記載された棚卸資産の金額だけでなく、その金額をどのように算出したかが確認されます。一般的には、次のような資料の提示を求められることがあります。
- 決算日の棚卸表
- 商品、製品、原材料、仕掛品ごとの在庫明細
- 実地棚卸しに使用したカウントシート
- 商品コード、数量、単価、金額が分かる資料
- 倉庫や店舗ごとの在庫一覧
- 在庫管理システムやPOSシステムのデータ
- 外部倉庫会社から受け取った在庫証明
- 委託販売先へ預けている商品の明細
- 決算日前後の仕入請求書、納品書、検収記録
- 決算日前後の売上伝票、出荷記録、運送伝票
- 製造原価報告書や工事台帳
- 値引販売や廃棄に関する社内決裁資料
- 廃棄時の写真、廃棄業者の請求書、処分証明書
- 評価損の対象商品と計算根拠
税務調査では、棚卸表の合計額と総勘定元帳が一致しているかだけを確認するとは限りません。決算直前に仕入れた商品が棚卸表に記載されているか、決算後に販売された商品が前期末の在庫に含まれているかなど、仕入れ・在庫・売上げの流れをたどって確認されることがあります。
実際に聞かれやすい質問
棚卸資産については、調査担当者から次のような質問を受けることがあります。
「在庫はどこに保管していますか」
本社倉庫だけでなく、店舗、工場、資材置場、外部倉庫、工事現場、委託販売先など、会社が所有する在庫が存在する場所を確認します。会社の敷地内にないという理由だけで、棚卸資産から除外できるわけではありません。
反対に、取引先から預かっているだけの商品など、会社が所有していない物品は、原則として会社の在庫には含めません。所有権がいつ移転するかは、契約内容、納品条件、検収条件などによって異なるため、物品が置かれている場所だけで判断できないことがあります。
「誰が、いつ、どのように数えましたか」
実地棚卸しの担当者、実施日、数え方、確認者などを聞かれることがあります。決算日より前に棚卸しを行った場合には、棚卸日から決算日までの入出庫を反映し、決算日現在の数量へ調整する必要があります。棚卸期間中も商品の入荷や出荷が続いていた場合には、同じ商品を二重に数えたり、反対に数え漏らしたりしていないか確認します。
「決算直前に仕入れた商品はどこにありますか」
決算日前の仕入請求書や納品書から商品を抽出し、その商品が期末在庫、期末までの売上げ、返品などのいずれに反映されているか確認されることがあります。仕入代金を費用に計上している一方、売れていない商品を在庫に計上していなければ、売上原価が過大になります。
「決算後すぐに売れた商品は、期末在庫に含まれていますか」
決算後の売上伝票からさかのぼり、その商品がいつ仕入れられ、決算日にどこにあったかを確認する方法です。決算後に販売した商品のうち、決算日以前に仕入れ、会社が所有していたものは、通常、期末棚卸資産に含める必要があります。
「この商品の評価額をゼロにした理由は何ですか」
長期間売れていない、旧型になった、箱が汚れているといった事情だけでなく、通常の価格や方法で販売できなくなったことを示す客観的な資料があるか確認されます。実際の値引販売価格、過去の販売実績、新商品の発売状況、商品の破損状態、使用期限、処分見込額などを説明できるようにしておく必要があります。
社外にある在庫も数え忘れない
棚卸しで漏れやすいのが、会社の店舗や本社倉庫以外にある商品や材料です。例えば、次のような物品について確認が必要です。
- 外部の物流倉庫へ預けている商品
- 百貨店や販売代理店へ委託している商品
- 得意先へ試用・展示目的で預けている商品
- 工事現場へ搬入した未使用材料
- 加工のため外注先へ支給した原材料
- 修理や検査のため社外へ出している商品
- 配送途中の商品
- 返品を受けたものの検品前の商品
委託販売では、販売先へ商品を発送した時点ではなく、実際に販売された時点で売上げとなり、それまで会社の棚卸資産に含まれる場合があります。また、工事現場へ材料を運んでいても、決算日までに使用されていなければ、材料在庫や未成工事支出金などとして計上する必要があることがあります。実際の処理は契約条件、検収時期、工事の進捗状況、会社が採用する収益計上方法などによって異なります。
仕掛品や未成工事支出金にも注意
製造業では、完成していない製品であっても、決算日までに投入した材料費、外注加工費、労務費、製造経費などを仕掛品として計上することがあります。建設業では、完成・引渡しに至っていない工事に対応する原価を、未成工事支出金などとして処理することがあります。
完成品や未使用材料だけを棚卸しし、製造途中の製品や進行中の工事原価をすべて当期の費用にしていると、利益が少なく計算される可能性があります。税務調査では、次のような資料が確認されることがあります。
- 製造指図書
- 作業日報
- 材料払出記録
- 外注加工費の明細
- 工事台帳
- 現場別原価表
- 工程表
- 工事請負契約書
- 完成・引渡し・検収に関する資料
- 決算後の請求書や売上計上記録
仕掛品や未成工事支出金の計算では、どこまでの費用を取得価額に含めるかが問題になります。業種、原価計算の方法、契約内容などによって取扱いが異なるため、毎期継続した基準で計算することが大切です。
売れ残っただけでは評価額をゼロにできない
税務上、棚卸資産は、会社が選定して届け出た評価方法などに従って評価するのが原則です。国税庁の法人税基本通達では、「著しい陳腐化」について、棚卸資産そのものに物質的な欠陥がなくても、経済環境の変化により価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態と説明しています。具体例として、次のような事情が示されています。
- 季節商品が売れ残り、過去の販売実績などから今後通常の価格では販売できないことが明らかである
- 型式、性能、品質などが著しく異なる新製品の発売により、旧商品を今後通常の方法では販売できなくなった
- 破損、型崩れ、長期間の棚ざらし、品質変化などにより、通常の方法では販売できなくなった
一方、物価変動、過剰生産、販売価格の変更などによって時価が下がっただけでは、税務上の評価損を計上できる特別な事実には該当しないとされています。
「1年以上売れていない商品は一律50%」「3年以上経過した商品はすべてゼロ」といった社内基準だけで、税務上の損金算入が認められるとは限りません。在庫期間は重要な判断材料になりますが、保有年数だけで評価損の可否や金額が自動的に決まるわけではありません。
具体例で確認
岡山県内で衣料品を販売する3月決算法人が、期末棚卸しについて次の処理をしたケースを考えます。
| 内容 | 取得原価 |
|---|---|
| 帳簿へ計上した期末在庫 | 300万円 |
| 外部倉庫にあり、数え忘れた商品 | 250万円 |
| 旧シーズン商品としてゼロ評価した在庫 | 150万円 |
| 正しい取得原価の合計 | 700万円 |
会社は期末在庫を300万円として申告しました。しかし、外部倉庫の250万円分も会社所有の商品であれば、原則として期末棚卸資産に含める必要があります。さらに、旧シーズン商品の150万円について、決算日後も通常価格に近い金額で販売している、または通常の販売方法で継続して販売している場合には、全額をゼロ評価する根拠が乏しい可能性があります。
この場合、税務調査で期末棚卸高が最大400万円少ないと判断されれば、その事業年度の所得が400万円増加する可能性があります。
一方、旧シーズン商品について、過去の販売実績から通常価格では販売できず、決算後に大幅な値引販売をしている事実や、処分見込額を裏付ける資料がある場合には、一定の評価損を計上できる可能性があります。評価損の金額は、商品の状態、実際の販売可能額、処分見込額、会社が採用している評価方法などを基に個別に検討します。
「廃棄予定」だけで在庫から外さない
売れない商品を廃棄する方針を決めていても、決算日現在でまだ倉庫に保管し、販売や転用が可能な状態であれば、廃棄予定というだけで在庫から除外することは難しい場合があります。実際に廃棄した場合には、次の資料を保存しておきましょう。
- 廃棄対象商品の一覧
- 商品名、数量、取得原価
- 廃棄を決定した理由
- 取締役会議事録や社内稟議書
- 廃棄前後の写真
- 廃棄業者への依頼書
- 廃棄業者の請求書、領収書
- 処分証明書、計量票
- 廃棄日が分かる記録
- 在庫管理システムから減少させた記録
- 有償で売却した場合の売却代金
廃棄業者へ依頼せず自社で処分する場合でも、処分前後の写真、立会者、廃棄日、廃棄方法などを記録しておくと説明しやすくなります。大量の商品を決算日に廃棄したという会計処理があるのに、廃棄物処理費用や搬出記録がなく、商品がその後も倉庫に残っていれば、廃棄損を否認される可能性があります。
なお、消費税では、事業用の棚卸資産を廃棄したこと自体は、原則として資産の譲渡等には該当しません。ただし、仕入税額控除、保険金、スクラップ売却などの取扱いは個別事情によって異なる場合があります。
評価方法を毎年都合よく変更しない
棚卸資産には、最終仕入原価法、総平均法、移動平均法、個別法、売価還元法などの評価方法があります。法人が棚卸資産の評価方法を選定する場合には、原則として所定の届出を行います。設立時の届出期限は、通常、設立第1期の確定申告書の提出期限までです。評価方法を変更する場合にも、所定の承認申請が必要です。
利益が多い年度には低い評価額を使い、利益が少ない年度には高い評価額を使うなど、会社の都合で評価方法を毎年変更することはできません。税務調査前には、実際に使用している評価方法が過去に届け出た方法と一致しているか、品目や事業の種類ごとに継続して適用されているかを確認しましょう。届出をしていない場合に適用される法定評価方法や、評価方法を変更できる時期は、法人と個人事業者で異なるため注意が必要です。
指摘された場合の税務上の影響
法人税や所得税などの追加納付
期末棚卸高が少なければ、売上原価が過大となっています。正しい期末棚卸高へ修正すると所得が増えるため、法人税等または所得税等の追加納付が必要になる可能性があります。
翌事業年度への影響
当期の期末棚卸高は、原則として翌期の期首棚卸高になります。そのため、調査対象年度の期末在庫を修正すると、翌事業年度以降の売上原価にも影響することがあります。単純に調査対象年度の所得を増額するだけではなく、翌期以降との対応を確認し、二重に課税されないよう年度ごとの計算を整理する必要があります。
加算税や延滞税
修正申告などによって追加の税額が生じる場合には、過少申告加算税や延滞税が発生することがあります。在庫の存在を意図的に帳簿や棚卸表から除外した、架空の廃棄記録を作成したといった事情がある場合には、重加算税の適用が問題になる可能性もあります。
ただし、在庫差異や資料不足があったという理由だけで、当然に重加算税が課されるわけではありません。棚卸しの方法、記帳状況、誤りが生じた経緯、会社の認識などを基に個別に判断されます。
決算前にできる棚卸しの見直し
棚卸資産の問題は、税務調査の連絡を受けてから過去の状況を再現することが難しい分野です。決算時には、次の手順で確認しておくとよいでしょう。
在庫が存在する場所を一覧にする
本社、店舗、工場だけでなく、外部倉庫、工事現場、委託販売先、外注加工先などを含め、会社所有の在庫がある場所を一覧にします。
棚卸表へ作成者と確認者を記載する
棚卸しを行った担当者、実施日、確認者を明確にします。数量の訂正がある場合には、訂正前後の内容と理由が分かるように残します。
入出庫を停止または調整する
可能であれば棚卸し中の入出庫を止めます。入出庫を止められない場合には、棚卸しの前後に動いた商品の一覧を作り、重複や計上漏れがないか照合します。
決算日前後の仕入れと販売を照合する
決算日前後の納品書、請求書、入荷記録、出荷記録を確認し、仕入れ・売上げ・在庫を正しい事業年度へ計上します。
滞留在庫を通常在庫と分ける
長期間売れていない商品、旧型品、破損品、使用期限が近い商品などは、通常在庫と区分して管理します。ただし、区分しただけで評価損を計上できるわけではありません。値引販売実績、処分見込額、商品の写真、新商品の発売資料など、価値の低下を示す資料を保存します。
帳簿数量と実際数量の差を放置しない
在庫管理システム上の数量と実地棚卸数量に差がある場合には、原因を確認します。入力漏れ、返品、破損、盗難、サンプル使用、私的使用など、差異の原因によって税務処理が異なる可能性があります。毎年「棚卸差損」として一括処理するのではなく、金額の大きな差異は個別に調査しましょう。
まとめ
期末棚卸高を少なく計上すると、売上原価が増え、その事業年度の利益が少なくなります。税務調査では、棚卸表だけでなく、決算日前後の仕入れ・販売、外部倉庫や委託販売先にある商品、仕掛品、未成工事支出金、廃棄記録、評価損の根拠などが確認されることがあります。
売れ残っている、古くなっているというだけで、在庫を一律に半額やゼロで評価できるわけではありません。破損、品質変化、著しい陳腐化などにより通常の方法で販売できず、価値の回復が見込めない場合には評価損を計上できる可能性がありますが、商品の状態や販売実績を示す客観的な資料が必要です。
税理士法人アストラストでは、棚卸表と会計帳簿の照合、社外在庫や仕掛品の確認、滞留在庫の評価、廃棄損の証拠整理、税務調査前の決算書チェックまで対応しています。
岡山県内で、長期間売れていない在庫が多い、外部倉庫や複数店舗の在庫を十分に把握できていない、毎期の棚卸差異が大きいという事業者の方は、決算を確定する前にご相談ください。
※本記事は令和8年7月23日現在の法令および国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。棚卸資産の範囲、取得価額、評価損・廃棄損の損金算入、売上げや仕入れの計上時期は、業種、契約条件、商品の状態、採用している評価方法などによって異なります。実際の判断にあたっては、顧問税理士等にご確認ください。