決算前に利益が見込まれるとき、従業員の貢献へ報いる方法として「決算賞与」を検討する会社があります。
従業員へ決算日までに賞与を支払えば、原則として、その支払った事業年度の損金に算入できます。一方、決算日時点で未払いでも、一定の要件をすべて満たせば、従業員へ支給額を通知した事業年度の損金に算入できる場合があります。
ただし、「決算前に賞与の総額を決めた」「従業員へ支給予定と伝えた」「未払金を計上した」というだけでは足りません。
各人別の金額を全対象者へ通知し、決算日の翌日から1か月以内に通知どおり支払い、決算で損金経理する必要があります。
税額だけを見て決めるのではなく、賞与、社会保険料、源泉所得税を含む資金繰りと、従業員への説明方法まで支給前に検討しましょう。
使用人賞与は原則として支払った年度の経費
法人が従業員へ支給する賞与は、原則として、実際に支払った日の属する事業年度の損金になります。
例えば、8月決算法人が令和8年9月15日に従業員へ賞与を支払った場合、その賞与は原則として令和9年8月期の損金です。
決算日である令和8年8月31日に、次の仕訳を行っただけでは、当然に令和8年8月期の損金になるわけではありません。
賞与 1,300,000円/未払費用 1,300,000円
未払賞与を令和8年8月期へ計上するには、税法上の要件をすべて満たす必要があります。
未払決算賞与を損金にする三つの要件
法人税法施行令第72条の3第2号は、次の要件をすべて満たす使用人賞与について、従業員へ支給額を通知した日の属する事業年度に支給されたものとして所得金額を計算するとしています。
各人別の支給額を全対象者へ通知する
賞与総額だけでなく、従業員一人ひとりの具体的な支給額を確定し、同時期に賞与を受けるすべての従業員へ通知します。
「決算賞与として総額300万円を支給する予定です」「一人当たり10万円から30万円程度を予定しています」といった案内では、各人別の金額が確定していません。
また、経営者と経理担当者の間で金額を決めただけでは、従業員本人への通知にはなりません。
国税庁は、法人が支給日に在職する使用人のみに賞与を支給することとしている場合、その支給額の通知はここでいう「通知」には該当しないとしています。
一方、賞与の支給を受けるすべての使用人に対して支給する賞与について、パートタイマーや臨時雇いの使用人とその他の使用人を区分している場合には、その区分ごとに支給額の通知を行ったかどうかを判定できるとされています。
決算日の翌日から1か月以内に通知どおり支払う
通知した全従業員へ、通知した金額を、通知日の属する事業年度終了の日の翌日から1か月以内に支払う必要があります。
8月31日決算であれば、原則として9月30日までに支払います。
通知額と支給額が異なる場合や、一部の従業員への支給が遅れた場合には、未払計上した決算賞与について要件を満たさないと判断される可能性があります。
通知した年度に損金経理する
賞与額を従業員へ通知した事業年度の決算で、未払賞与などとして損金経理します。
通知と支払いの要件を満たしていても、決算書へ賞与を計上していなければ、未払賞与としての損金算入はできません。
8月決算法人の具体例
岡山県内の8月決算法人が、令和8年8月25日に6人の従業員へ決算賞与を通知したケースを考えます。
| 従業員 | 通知額 |
|---|---|
| Aさん | 300,000円 |
| Bさん | 250,000円 |
| Cさん | 250,000円 |
| Dさん | 200,000円 |
| Eさん | 150,000円 |
| Fさん | 150,000円 |
| 合計 | 1,300,000円 |
会社は、各従業員へ令和8年8月25日に個別の賞与通知書を交付し、令和8年8月31日の決算で次の仕訳を行いました。
賞与 1,300,000円/未払賞与 1,300,000円
その後、令和8年9月30日に、通知した全従業員へ通知どおりの金額を振り込みました。
この場合、他の要件にも問題がなければ、130万円を令和8年8月期の損金に算入できる可能性があります。
一方、振込日が令和8年10月1日になった場合、決算日の翌日から1か月以内という要件を満たしません。その場合、原則として実際に支払った令和9年8月期の損金になります。
銀行の休業日や振込予約の処理時間も考慮し、期限当日の支払いは避けた方が安全です。
「業績次第」「支給日に在籍」が付いていると通知にならないことがある
決算賞与の通知書に、次のような条件を付けることがあります。
- 支給日まで勤務した場合に支給する
- 支給日現在で在籍している者に限る
- 翌月の売上目標を達成した場合に支給する
- 資金繰りに問題がない場合に支給する
- 会社が必要と認めた場合に支給する
- 支給日までに問題行動がなかった場合に支給する
- 金額は会社の判断により変更することがある
このような条件があると、通知時点で賞与の支給義務や金額が最終的に確定していないと判断される可能性があります。
国税庁は、支給日に在職する従業員だけへ賞与を支給する場合の通知について、未払賞与の損金算入要件における「通知」には該当しないと示しています。
実際に、金沢国税局の文書回答事例では、「当年度において粗利○○円以上を達成した場合」といった支給基準条件を設定し、期末に在籍していることも条件として従業員へ支給予定額を通知したうえで、翌事業年度に支給するという事例が照会されました。
これに対する回答では、支給額の通知とは、個々の使用人ごとの具体的な賞与の支給額を最終的・確定的に決定したうえで通知することを意味するため、将来一定の条件を満たした場合に支給する賞与について支給予定額を通知しても要件を満たさないとされました。その結果、通知した事業年度ではなく、実際に支払われた日の属する事業年度の損金に算入することが相当であると回答されています。
決算前に支給額を通知した後、決算日から支給日までの間に退職者が出た場合であっても、通知した金額を支払わなければ要件を満たさない可能性があります。
従業員への通知書を作成する際は、税務上の確定通知と矛盾する条件が入っていないか確認しましょう。
通知は口頭でもよいのか
税法上、通知方法を必ず書面に限定する規定ではありません。
しかし、口頭で通知した場合には、誰へ、いつ、いくらと伝えたかを後日確認することが困難です。
実務上は、次のような資料を残します。
- 従業員別の賞与通知書
- 通知書の受領確認
- 社内メールの送信記録
- 給与システムから配信した明細
- 電子通知の閲覧履歴
- 賞与額を決定した社内決裁書
- 取締役会議事録
- 従業員別の賞与一覧表
- 振込データ
- 預金通帳
- 賞与台帳
メールや給与明細システムで通知する場合は、作成日だけでなく、決算日までに従業員へ送信・公開されたことを確認できる記録を保存します。
決算後に作成した通知書の日付を決算日前へ変更することは適切ではありません。
一部の従業員だけに支給する場合
決算賞与をすべての従業員へ同額支給する必要はありません。
勤務成績、職務、責任、勤務期間など、合理的な基準により金額に差を設けることは可能です。
また、賞与制度上、正社員、パートタイマー、臨時雇用者などを合理的に区分している場合は、その区分ごとに通知要件を判定できる場合があります。
ただし、賞与の対象としている従業員のうち、特定の人だけ通知を翌期に回したり、一部の人だけ支給を遅らせたりすると、要件を満たさない可能性があります。
対象者を決定するときは、次の事項を整理しておきましょう。
- 就業規則や賃金規程の内容
- 雇用区分
- 賞与の算定期間
- 査定基準
- 入社日
- 休職・育児休業等の取扱い
- 退職予定者の取扱い
- 使用人兼務役員への支給
- 支給対象外とする理由
税務だけでなく、就業規則や雇用契約との整合性にも注意が必要です。
役員賞与には同じ取扱いを使えない
未払決算賞与の三要件は、原則として使用人に対する賞与の取扱いです。
代表取締役、取締役、業務執行社員などの役員へ臨時の賞与を支給する場合は、使用人賞与と同じようには処理できません。
役員賞与を法人税上の損金に算入するためには、事前確定届出給与などの要件を満たす必要があります。
原則的な事前確定届出給与の届出期限は、株主総会等で支給時期と支給額を定めた日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です。新設法人や臨時改定事由がある場合などは取扱いが異なります。
決算直前になってから役員へ賞与を支給することを決めても、事前確定届出給与の期限を過ぎていれば、原則として損金算入できません。
使用人兼務役員へ賞与を支給する場合も、使用人としての職務に対応する部分と、役員としての職務に対応する部分を区分できるか確認が必要です。
決算賞与の金額は税額だけで決めない
決算賞与を支給すると、会社の利益が減り、法人税等の負担も減少する可能性があります。
例えば、決算賞与130万円を損金に算入し、法人税等の実効的な負担割合を仮に30%として単純計算すると、税負担の減少見込額は次のとおりです。
130万円 × 30% = 39万円
しかし、会社から実際に支出する賞与は130万円です。さらに、社会保険の加入状況などに応じて会社負担の社会保険料も発生します。
税負担が39万円減少する可能性があっても、賞与本体と社会保険料を合わせた資金流出の方が大きくなります。
また、実際の法人税等の負担割合は、所得金額、資本金、法人区分、地方税、繰越欠損金、税額控除などにより異なります。
決算賞与は、節税だけを目的にするのではなく、従業員への利益還元、採用・定着、今後の人件費、会社の資金繰りを含めて判断しましょう。
支払い前に資金繰りを確認する
未払決算賞与は、決算日の翌日から1か月以内に全対象者へ支払う必要があります。
決算後には、通常、次のような支出も続きます。
- 毎月の給与
- 賞与に係る社会保険料
- 源泉所得税
- 法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税
- 借入金の返済
- 買掛金・外注費の支払い
- 設備投資代金
- 賃料やリース料
例えば、8月決算法人が9月30日に決算賞与を支給した場合、法人税等の申告・納付期限は原則として10月31日です。
賞与支給と法人税等の納付が近接するため、決算日時点の預金残高だけで判断すると、納税資金が不足する可能性があります。
少なくとも決算後3か月程度の資金繰り表を作成し、賞与、社会保険料、源泉所得税、法人税等を反映させましょう。
源泉所得税の計算と納付期限
従業員へ賞与を支払うときは、所得税および復興特別所得税を源泉徴収します。
通常は、前月の給与から社会保険料等を控除した金額と扶養親族等の人数に応じて「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」から税率を求め、賞与から社会保険料等を控除した金額へ掛けて計算します。
前月に給与の支払いがない場合や、賞与が前月給与の一定倍率を超える場合は、通常と異なる計算を行います。
令和8年分の源泉徴収税額表は、令和7年度税制改正において所得税の基礎控除の見直し等が行われたことに伴い、税額や扶養親族等の数の算定方法が変更されています。令和8年1月1日以後に支払う給与・賞与には令和8年分の表を使用し、過年度の税額表を使わないよう注意しましょう。
未払計上した使用人賞与は、原則として実際に支払うときに源泉徴収します。
源泉所得税の納付期限は、原則として賞与を支払った月の翌月10日です。
給与の支給人員が常時10人未満で、源泉所得税の納期の特例について承認を受けている会社は、次の期限までにまとめて納付できます。
| 支払った期間 | 納付期限 |
|---|---|
| 1月から6月までの支払分 | 7月10日 |
| 7月から12月までの支払分 | 翌年1月20日 |
賞与の振込額だけでなく、源泉所得税の納付資金も確保しておきましょう。
社会保険の賞与支払届
健康保険・厚生年金保険の被保険者へ賞与を支給した場合は、原則として、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を日本年金機構へ提出します。
賞与に係る標準賞与額は、実際に支給した税引前の賞与額から1,000円未満を切り捨てて計算します。
標準賞与額の上限は、令和8年9月19日現在、健康保険では年度累計573万円、厚生年金保険では1か月当たり150万円です。同じ月に複数回賞与を支給した場合は、合算して上限額を判定します。
賞与に係る社会保険料は、賞与支払月の翌月の納入告知書等で毎月の保険料と合算して通知され、原則としてその月の末日までに納付します。
ここで注意したいのは、会社負担分の社会保険料を損金に算入できる時期です。社会保険料は、原則として保険料の計算の対象となった月の末日が属する事業年度の損金となります。決算賞与を未払計上して翌期に支給した場合、その賞与に係る社会保険料は支給した月の保険料となるため、賞与本体とは損金算入の事業年度がずれることがあります。
未払賞与を決算で計上した時点と、実際に支給して賞与支払届を提出する時点は異なります。
賞与本体を前期の損金へ算入できる場合でも、それに対応する会社負担の社会保険料を同じ事業年度へ当然に未払計上できるとは限りません。保険料債務が確定する時期を別途確認しましょう。
決算賞与を支給するための届出は必要か
使用人に対する決算賞与を未払計上するために、税務署へ専用の届出書を提出する必要はありません。
ただし、届出が不要だからこそ、次の社内資料を整えておくことが重要です。
- 決算賞与の支給決定書
- 算定基準
- 従業員別支給一覧
- 個別通知書
- 通知日を確認できる資料
- 未払計上の仕訳
- 総勘定元帳
- 振込依頼書
- 銀行の振込結果
- 賞与台帳
- 源泉徴収税額の計算資料
- 賞与支払届
- 社会保険料の計算資料
一方、役員へ賞与を支給する場合には、事前確定届出給与に関する届出が必要となることがあります。従業員賞与と役員賞与を同じ手続で処理しないよう注意しましょう。
決算前の実務スケジュール
8月31日決算法人が未払決算賞与を計上する場合、実務上は次のような日程が考えられます。
令和8年8月上旬
決算見込みを作成し、売上、利益、納税見込額、預金残高を確認します。
令和8年8月中旬
賞与総額、対象者、各人別支給額、支給日を決定します。通常の給与や税金を含めた資金繰りを確認します。
令和8年8月25日
各人別の確定額を、賞与通知書や電子明細により全対象者へ通知します。
令和8年8月31日
通知した賞与額を決算書へ未払計上します。通知記録と従業員別一覧を決算資料として保存します。
令和8年9月30日まで
通知したすべての従業員へ、通知どおりの金額を支払います。
支給日から5日以内
社会保険の対象者について、被保険者賞与支払届を提出します。
源泉所得税の納期限
原則として支給月の翌月10日までに納付します。納期の特例を受けている場合は、特例の納期限に従います。
支給日が月末に近い場合は、給与計算、銀行振込、賞与支払届の準備期間が短くなります。決算賞与を実施するかどうかは、決算日直前ではなく、少なくとも数週間前から検討しましょう。
まとめ
使用人に対する決算賞与は、決算日時点で未払いであっても、一定の要件をすべて満たせば、その決算期の損金に算入できる場合があります。
必要となる主な要件は、各人別の確定額を同時期に支給を受ける全従業員へ通知すること、決算日の翌日から1か月以内に通知どおり支払うこと、通知した事業年度で損金経理することです。
「支給日に在籍している場合」「今後の業績目標を達成した場合」などの条件が付いていると、通知時点で支給額が確定していないと判断される可能性があります。
また、役員賞与には使用人賞与と同じ取扱いを利用できず、事前確定届出給与などの要件を確認する必要があります。
税理士法人アストラストでは、決算利益と納税額の見込み、従業員別の賞与額、通知書、支給期限、源泉所得税、社会保険料、決算後の資金繰りまで一体的に確認しています。
岡山県内で従業員への利益還元を検討している会社、決算賞与を未払計上したい会社、役員賞与と従業員賞与の区分に迷っている会社は、従業員へ金額を通知する前にご相談ください。
※本記事は令和8年9月19日現在に公表されている法令および国税庁・日本年金機構の資料に基づく一般的な説明です。実際の損金算入時期、源泉所得税、社会保険料、労務上の取扱いは、就業規則、通知内容、支給対象者、支給日、役員該当性、社会保険の加入状況などによって異なります。