工事や仕事を始める前に、代金の一部を「前受金」「着手金」「手付金」として受け取ることがあります。
お金が入金されると、その金額をそのまま売上に計上してよいと思われることがあります。しかし、消費税では、代金を受け取った時点ではなく、商品を引き渡した時点や仕事が完了した時点で課税売上げに計上するのが原則です。
前受金の処理を間違えると、消費税を納めすぎたり、逆に納税額が不足したりする可能性があります。インボイス制度が始まってからは、前受金を受け取ったときのインボイスの取扱いも気になるところです。
この記事では、前受金・着手金・手付金を受け取ったときの消費税の考え方と、インボイス・仕入税額控除の注意点を整理します。
消費税の課税売上げは「引渡し」や「役務の完了」の時点で計上する
消費税では、商品の販売やサービスの提供にかかる課税売上げを、いつの課税期間に計上するかが重要になります。
国税庁の取扱いでは、資産の譲渡等を行った時期は、原則として、次のように考えます。
- 商品などの販売――その商品を引き渡した日
- 請負――物の引渡しを要するものは目的物の全部を引き渡した日、引渡しを要しないものは約した役務の全部を完了した日
- その他のサービス提供――そのサービスの提供を完了した日
つまり、消費税の課税売上げに計上する時期は、原則として「お金を受け取った日」ではなく「引き渡した日」や「仕事が終わった日」です。
そのため、仕事を始める前や完了する前に受け取った前受金は、受け取った時点では、原則として課税売上げには計上しません。
前受金・着手金・手付金は入金時点では課税売上げにならない
前受金・着手金・手付金は、これから行う商品の引渡しや役務の提供に対して、先に受け取っておくお金です。
受け取った時点では、まだ商品の引渡しや仕事の完了が行われていません。そのため、その入金は「預り」のような性質を持ち、原則として、その時点では課税売上げに計上しません。
会計上も、前受金は貸借対照表の負債として計上し、商品の引渡しや仕事の完了に合わせて売上へ振り替えるのが一般的です。
例えば、岡山県内で内装工事を請け負う会社が、契約時に着手金として330万円(税込)を受け取ったとします。工事はまだ始まっていません。
(入金時)普通預金 330万円 / 前受金 330万円
この時点では、消費税の課税売上げには計上しません。工事が完成し、引き渡した課税期間に、前受金を売上へ振り替えて課税売上げに計上します。
(引渡し時)前受金 330万円 / 売上高 300万円・仮受消費税 30万円
入金の名目が「前受金」「着手金」「手付金」「内金」など何であっても、その実態が「これから行う引渡し・役務提供の対価の前払い」であれば、考え方は同じです。
手付金は「解約手付」か「代金の一部」かで扱いが分かれることがある
手付金には、契約が成立した証として渡す意味のほか、解約の際の違約金的な性質を持つものもあります。
最終的に取引が成立し、手付金が代金の一部に充当される場合は、前受金と同じように、引渡し・役務提供が完了した課税期間に課税売上げへ計上します。
一方、取引が解約され、手付金が解約に伴う損害賠償金や違約金として相手のものになった場合は、資産の譲渡等の対価には当たらず、消費税の課税対象外(不課税)となる場合があります。
手付金を受け取った段階では、最終的にどちらになるか確定していないこともあります。契約書で手付金の性質を確認し、解約が生じたときの処理まで想定しておくことが大切です。
前受金でもインボイスは交付できる
インボイス制度(適格請求書等保存方式)では、売手が課税資産の譲渡等を行った場合に、買手の求めに応じてインボイス(適格請求書)を交付することとされています。
前受金を受け取った段階では、まだ引渡し・役務提供が完了していないため、その入金自体は原則として課税売上げになりません。もっとも、実務では、前受金や着手金を受け取ったときに領収書やインボイスの交付を求められることがあります。
この場合でも、最終的に引渡し・役務提供が行われることが前提であれば、前受金の受領に合わせてインボイスを交付し、後日、残代金の受領や引渡しのときに全体を精算する運用が考えられます。
ここで注意したいのは、インボイスをいつ交付したかと、消費税の課税売上げをいつ計上するかは別の話だということです。前受金の段階でインボイスや領収書を交付しても、それだけで課税売上げの計上時期が前受金の入金時に前倒しされるわけではありません。
複数回に分けて前受金・中間金・残代金を受け取り、その都度インボイスを交付する場合は、二重に計上したり、逆に計上漏れが生じたりしないよう、契約全体の金額とインボイスの合計が一致しているかを確認しましょう。
買手側――前払いしただけでは仕入税額控除できない
ここまでは代金を受け取る売手側の話でしたが、代金を前払いする買手側にも同じ考え方があります。
買手が仕入税額控除を行える時期は、原則として、課税仕入れを行った日、すなわち商品の引渡しを受けた日や役務の提供を受けた日の属する課税期間です。
そのため、着手金や手付金を前払いしても、その支払いだけを理由に、支払った課税期間で仕入税額控除を行うことは原則としてできません。実際に商品の引渡しやサービスの提供を受けた課税期間に、インボイスなどの保存を要件として仕入税額控除を行うのが原則です。
「支払った=すぐに仕入税額控除できる」と考えていると、控除の時期を誤る可能性があります。前払いした金額は前渡金として資産に計上し、引渡し・役務提供を受けた時点で費用や資産へ振り替える流れを意識しておきましょう。
例外――短期前払費用に当たる場合は支払った課税期間で控除できる
ただし、前払いのすべてが「引渡し・役務提供を受けるまで控除できない」わけではありません。国税庁は、前払費用のうち、所得税または法人税の取扱いによりその支出した年度において必要経費または損金の額に算入している短期前払費用については、その支出した課税期間の課税仕入れとして取り扱うとしています(消費税法基本通達11-3-8)。
つまり、消費税の控除時期は法人税・所得税の処理と連動します。整理すると次のとおりです。
| 支払いの内容 | 法人税・所得税 | 消費税の仕入税額控除 |
|---|---|---|
| 1回限りの工事の着手金・手付金など | 前渡金として資産計上 | 引渡し・役務提供を受けた課税期間 |
| 家賃・保守料などの年払いで、短期前払費用の取扱いを適用しているもの | 支出した年度の損金・必要経費 | 支出した課税期間 |
| 同じ年払いでも、短期前払費用の要件を満たさないもの | 前払費用として資産計上 | 役務の提供を受けた課税期間 |
着手金や手付金は、特定の1件の取引に対する代金の前払いであり、「一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用」には当たらないことが多いため、通常はこの例外の対象になりません。一方、家賃や保守料の年払いのように継続的なサービスの対価であれば、要件を満たすかどうかを検討する余地があります。
なお、この例外は控除できる時期の話であって、控除そのものの要件が緩むわけではありません。原則として、帳簿および適格請求書(インボイス)等の保存は、いずれの場合も必要です。
短期前払費用の特例には要件がある
継続的なサービスの提供を受けるために前払いした費用のうち、一定の要件を満たすものは、支払った事業年度の費用として処理することが認められる場合があります(いわゆる短期前払費用の取扱い)。
ただし、これは主に法人税・所得税での費用の計上時期に関する取扱いであり、次のような要件を満たすことが前提とされています。
- 一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために支出した費用であること
- 支払った日から1年以内に提供を受ける役務にかかるものであること
- 支払った金額に対する役務の提供が等質・等量であること
- 実際に代金を支払っていること
- 継続して同じ処理を行うこと
1回限りの工事の着手金や、金額が大きく重要性が高いものは、この特例の対象にならないと考えられる場合があります。前払いした費用を支払時に処理してよいかどうかは、契約内容や継続性、金額の重要性などを個別に確認する必要があります。
具体例――前受金の計上時期を間違えるとどうなる?
岡山県内で3月決算の建設会社が、次のような契約を結んだとします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 契約日 | 令和8年2月10日 |
| 着手金の入金 | 令和8年2月28日/330万円(税込) |
| 工事完成・引渡し | 令和8年5月20日 |
| 残代金の入金 | 令和8年6月10日/770万円(税込) |
この工事の引渡しは令和8年5月20日です。したがって、着手金330万円を含む工事全体の課税売上げは、原則として引渡しの日が属する課税期間(=翌期)に計上します。
もし着手金330万円を入金日の令和8年2月28日で当期の課税売上げに計上してしまうと、本来は翌期に計上すべき売上を当期に前倒ししたことになり、当期と翌期の消費税額の区分を誤ることになります。
逆に、引渡しが完了しているにもかかわらず、前受金のまま売上へ振り替えるのを忘れると、課税売上げの計上漏れとなり、後から消費税の追加納付が必要になる可能性があります。
前受金は「入金の時期」と「売上の時期」がずれる取引です。入金の記録と、引渡し・完了の記録の両方を残し、決算時に前受金の残高が正しく精算されているかを確認することが大切です。
前受金を管理するときのポイント
前受金・着手金・手付金を受け取る取引では、次のような管理表を作っておくと、計上漏れや二重計上を防ぎやすくなります。
| 確認する項目 | 内容 |
|---|---|
| 入金日・入金額 | いつ、いくら前受金を受け取ったか |
| 入金の名目 | 着手金・手付金・内金など、契約上の性質 |
| 引渡し・完了予定日 | いつ課税売上げに計上する見込みか |
| インボイスの交付状況 | 前受金の段階で交付したか、精算時に交付するか |
| 前受金残高 | 決算日時点で売上へ振り替え済みか、残っているか |
特に、工事や制作の期間が決算日をまたぐ取引では、前受金の残高と、引渡し・完了の事実を照らし合わせることが重要です。
まとめ
前受金・着手金・手付金は、これから行う商品の引渡しや役務の提供に対して先に受け取るお金です。受け取った時点では、原則として消費税の課税売上げには計上しません。
課税売上げに計上するのは、原則として商品を引き渡した日や仕事が完了した日が属する課税期間です。インボイスを前受金の段階で交付しても、課税売上げの計上時期そのものが前倒しになるわけではありません。
買手側も、前払いしただけでは仕入税額控除はできず、原則として実際に引渡し・役務提供を受けた課税期間に、帳簿とインボイスの保存を要件として控除します。ただし、法人税・所得税で短期前払費用の取扱いを適用している前払費用については、支出した課税期間の課税仕入れとして取り扱われる例外があります。「前払いなら必ず引渡しまで控除できない」と一律に考えず、その支出が短期前払費用に当たるかどうかを確認しましょう。
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岡山県内で前受金や着手金を受け取る取引が多い会社、決算日をまたぐ工事や制作を行っている会社、インボイスの交付時期に迷っている会社は、お気軽にご相談ください。
※本記事は令和8年7月28日現在の法令・国税庁公表資料に基づく一般的な説明です。前受金・着手金・手付金の取扱い、課税売上げの計上時期、インボイスの交付、仕入税額控除の時期は、契約内容、取引の実態、事業者の状況などによって異なります。実際の処理にあたっては、顧問税理士等にご確認ください。